自民・公明の両党は、令和3年12月10日に「令和4年度税制改正大綱」を決定しました。賃上げに係る税制措置の抜本的な強化や5G導入促進税制では税額控除制度の見直し、住宅ローン控除の見直しなどが盛り込まれています。
また、電子帳簿保存関係では、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度について、令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に申告所得税および法人税に係る保存義務者が行う電子取引につき、納税地等の所轄税務署長がその電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存をすることができなかったことについて、やむを得ない事情があると認め、かつ、保存義務者が質問検査権に基づく電磁的記録の出力書面の提示または提出の求めに応じることができるようにしている場合には、その保存要件にかかわらず、その電磁的記録の保存をすることができることとする経過措置を講じることとされています。
電子取引のデータ保存について2年間の宥恕措置が講じられた形になりました。
それぞれの改正点について、詳細が判明しましたら、またお知らせします。
電子帳簿保存法の改正について
令和3年度の税制改正において、電子帳簿保存法の改正等が行われ、帳簿書類を電子的に保存する際の手続等について、抜本的な見直しがされています。改正点のうち電子取引に関する改正についてお知らせします。改正点の施行は令和4年1月1日以後となっております。
⑴タイムスタンプ要件の緩和
タイムスタンプの付与期間が、記録事項の入力期間と同様、最長約2カ月と概ね7営業日以内とされました。
⑵検索要件の緩和
➀記録項目は、取引年月日、取引金額、取引先に限定。➁日付又は金額の範囲指定により検索できること。➂二以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること。
保存義務者が税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索要件のうち➁、➂の要件は不要となり、小規模な事業者(基準期間の売上高が1,000万円以下の事業者)が、ダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索要件の全てが不要とされました。
⑶適正な保存を担保する措置の見直し
➀申告所得税及び法人税における電子取引取引情報に係る電磁的記録について、その電磁的記録の出力書面等の保存をもってその電磁的記録の保存に代えることができる措置は廃止されました。➁電子取引の取引情報に係る電磁的記録に関して、隠蔽し、又は仮装された事実があった場合には、その事実に関し生じた申告漏れ等に課される重加算税が10%加重される措置が整備されました。
改正点の施行後の令和4年1月1日以後の電子取引の保存要件は以下の通りとなります。
⑴真実性の要件は、以下の措置のいずれかを行うこと。
➀タイムスタンプが付された後、取引情報の授受を行う。➁取引情報の授受後、速やかに(又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付すとともに、保存を行う者又は監督者に関する情報を確認できるようにしておく。➂記録事項の訂正・削除を行った場合に、これらの事実及び内容を確認できるシステム又は記録事項の訂正・削除を行うことができないシステムで取引情報の授受及び保存を行う。➃正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規定を定め、その規定に沿った運用を行う。
⑵可視性の要件は、➀保存場所に、電子計算機(パソコン等)、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付け、画面・書面に整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくこと。➁電子計算機処理システムの概要書を備え付けること。➂検索機能を確保すること。
令和3年分年末調整について
令和3年分の年末調整について、各税務署より資料の送付や、国税庁ホームページには年末調整がよくわかるページが公開されています。
令和3年分の年末調整の手順については、令和2年分と同じ手順で行うこととなっています。
令和3年分の年末調整における前年との改正点は以下の通りになります。
1、税務関係書類における押印義務の改正。
税務署長等に提出する源泉所得税関係書類について、押印を要しないこととされました。このため、扶養控除等申告書などの年末調整の際に使用する書類についても、従業員等に押印をしていただく必要はありません。
2、源泉徴収関係書類の電磁的提供に係る改正
給与等の支払いを受ける者が、給与等の支払者に対して、給与所得者の扶養控除等申告書などの書面による提出に代えてその申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供を行う場合の要件であるその給与等の支払者が受けるべき税務署長の承認が不要とされました。
なお、電磁的方法による提供を行う場合には、給与等の支払者が➀電磁的方法による提供を適正に受けることができる措置を講じていること。➁提供を受けた記載事項について、その提供をした給与等の支払を受ける者を特定するための必要な措置を講じているいること。➂提供を受けた記載事項について、電子計算機の映像面への表示及び書面へ出力するために必要な措置を講じていることの全てを満たす必要があります。
3、eーTAXによる申請等の拡充
税務署長等に対する申請等のうちe-Taxによりその申請等に係る書面に記載すべき事項を入力して送信することができないものについて、書面による提出に代えて、イメージデータを送信することにより行うことができることとされました。
なお、毎年税務署主催で実施されていた年末調整説明会について、令和3年以降は実施しないとの公表もされています。
スマホアプリ納付の導入延期のお知らせ
令和3年度税制改正により国税の納付手段の多様化を図る観点から、スマートフォンを使用した決済サービスによる納付手段(以下「スマホアプリ納付」)が創設され、令和4年1月4日よりスマホアプリ納付を利用することができるとされておりました。
スマホアプリ納付は、納付書で納付できる国税を対象とし、税目による制限はありませんが、税額は30万円以下に限定されるものでした。
しかし、国税庁のホームページで、新型コロナウイルス感染症がまん延する中、デジタル投資の加速に伴うICT人材不足等により、スマホアプリ納付の導入時期が、令和4年1月4日から、令和4年12月に延期することが公表されました。
スマホアプリ納付の具体的な導入時期が公表されましたら、またお知らせ致します。
保険契約等に関する権利の評価に関する改正
使用者が、契約者として保険料を払い込んでいた場合において、その契約者としての地位(権利)や保険受取人としての地位(権利)を役員又は使用人(以下「役員等」)に支給する場合の、保険契約等に関する権利の評価の取扱いについて、令和3年6月25日に国税庁より改正が公表されたのでお知らせします。
保険契約等に関する権利の評価は、その支給時において当該契約を解除したとした場合に支払われることとなる解約返戻金の額(解約返戻金のほかに支払われることとなる前納保険料の金額、剰余金の分配等がある場合には、これらの金額との合計額。以下「支給時解約返戻金の額」)により評価することとなっています。
しかし、「低解約返戻金型保険」など解約返戻金の額が著しく低いと認められる期間(以下「低解約返戻期間」)のある保険契約等については、第三者との通常の取引において低い解約返戻金の額で名義変更等を行うことは想定されていないことから、低解約返戻期間の保険契約等については、「支給時解約返戻金の額」で評価することは適当でない考えられます。
また、法人税等基本通達において、法人の期間損益の適正化を図る観点から、法人が最高解約返戻率の高い保険契約等を締結している場合には、支払保険料の一部を資産に計上する取扱いが定められています。
そのため、今回の改正により、令和1年7月8日以降に保険加入し、令和3年7月1日以降に支給する「低解約返戻金型保険」の評価については、「支給時解約返戻金の額」が「支給時資産計上額」の70%に相当する金額未満である時は、当該支給時資産計上額により評価することとなりました。
逓増定期保険等の名義変更の際には、評価額としていずれの価額を使用するのか確認が必要となります。
また、個別の事案について、取り扱いが異なる場合がございますので、ご注意ください。
退職所得の課税関係と改正について
退職所得は、長期にわたる勤務の結果生ずるものであり、勤務の対価の一部が蓄積して一挙に支払われるものであることに配慮した税負担の平準化措置により、他の所得と区分して分離課税により、次の計算式により計算されることとなります。
(収入金額-退職所得控除額)✖1/2✖税率=退職所得に係る所得税額。
平成25年分以後の退職所得について、役員等勤続年数が5年以下である人が支払いを受ける退職所得については、上記の計算式の2分の1計算の適用はなく次の計算式により計算されることとなります。
(収入金額-退職所得控除額)✖税率=退職所得に係る所得税額。
令和3年度税制改正により令和4年分以後に支払いを受ける退職所得について、勤続年数5年以下の法人役員等以外の退職金について、退職所得控除額を控除した残額の300万円を超える部分について、2分の1課税を適用しないこととなります。
本改正により、法人の役員、従業員ともに勤続年数が5年以下の短期的な退職所得についての課税が強化されたこととなります。
計算式の退職所得控除額は、勤続年数20年までは1年につき40万円、勤続年数20年超は1年につき70万円で計算され、計算した退職所得控除額が80万円に満たない場合の退職所得控除額は80万円になります。
また、税率は、課税退職所得金額の区分に応じ超過累進税率が適用され5%~45%までのいづれかの税率が適用されます。
企業が従業員の感染予防対策費用を負担した場合の課税関係について
国税庁より「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」が更新され、「企業が従業員の感染予防対策費用を負担した場合の取扱い」が明示されておりますので、お知らせします。
今回更新されたFAQでは、➀マスク、石鹸等の消耗品の購入費用、➁従業員の自宅に設置する間仕切り、カーテン、空気清浄機等の備品の購入費用、➂感染が疑われる場合のホテル等の利用料・ホテルまでの交通費など、➃PCR検査費用、室内消毒の外部への委託費用、4つの費用について取扱いが明示されました。
➀~➃までの全ての費用について、業務のために通常必要な費用について、その費用を精算する方法(従業員からその費用に係る領収証等の提出を受けて、その費用を精算する方法)により、企業が従業員に対して支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税されないとのことです。
しかし、従業員の家族など従業員以外の者を対象に支給するものや、備品の所有権を従業員が有するもの、従業員が自己の判断により利用したホテル等の利用料、PCR検査の費用、消毒費用、予め支給した金銭について、業務のために通常必要な費用として使用しなかった場合でも、その金銭を企業に返還する必要がないものについては、従業員に対する給与として課税されるとのことです。
➀~➃の費用の支給に係る企業の法人税の課税関係については、原則として、消耗品費、旅費交通費等や給与として損金の額に算入することができるとのことです。
所得拡大促進税制の見直し
青色申告書を提出する中小企業者等が国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、前事業年度と当事業年度の国内雇用者に対する給与等支給額について、一定の要件を満たす場合に適用することができる所得拡大税制について、現行の制度から、適用要件について見直しが行われておりますのでお知らせいたします。
税額控除率は、15%(上乗せ要件を満たす場合については、25%)で変更はありません。
新制度は、令和3年4月1日から令和5年3月31日までに開始する各事業年度について適用されます。
(1)適用要件の変更
➀現行制度における適用要件である、「継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が1.5%以上」の要件が、「雇用者給与等支給額の比較雇用者給与等支給額に対する増加割合が1.5%以上」に見直しがされます。
➁税額控除率25%の要件のうち、「継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が2.5%以上」の要件が、「雇用者給与等支給額の比較雇用者給与等支給額に対する増加割合が2.5%以上」に見直しがされます。
また、適用要件を判定する際、雇用調整助成金やこれに類するものの額を控除しなくてよくなります。
(2)新制度の適用要件
上記の見直しにより、新制度の所得拡大税制の適用要件は、
雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額に比べ、増加率が1.5%以上であることとなり、
税額控除率が25%となる上乗せ要件は、雇用者給与等支給額が比較子強者給与等支給額に比べ、増加率が2.5%以上であり、教育訓練費増加要件を満たす事となります。
今回の見直しにより、継続雇用者を抽出する必要がなくなり、支給額の総額によるなど判定方法が簡素化されて、適用期間が2年間延長されることとなります。
適格請求書発行事業者(登録事業者)への登録について
令和5年10月1日から「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」が導入されます。
インボイス制度において、適格請求書発行事業者(登録事業者)のみが適格請求書(インボイス)を交付することができます。
適格請求書発行事業者の登録を受けることができるのは、課税事業者に限られ、登録を受けようとする課税事業者は、納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出する必要があります。
なお、登録申請書はインボイス制度導入の2年前である令和3年10月1日から提出することができます。
登録申請書の提出を受けた税務署長は、登録拒否要件に該当しない場合には、適格請求書発行事業者登録簿に法定事項を登載して登録を行い、登録を受けた事業者に対して、その旨を書面で通知することとされています。
また、登録申請書は、e-taxを利用して提出することもでき、この場合の登録の通知はe-taxを通じて行われます。
令和5年10月1日より前に登録の通知を受けた場合であっても、登録日は令和5年10月1日となります。
インボイス制度が導入される令和5年10月1日に登録を受けるためには、令和5年3月31日までに登録申請書を納税地を所轄する税務署長に提出する必要があります。
新型コロナウイルス感染症支援の収益計上時期について
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、様々な助成金等が交付されておりますが、国税庁より、「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」が更新され助成金等の収益計上時期が明示されております。
法人税の所得金額の計算上、助成金等の収益計上時期は、原則として、その助成金等の交付決定がされた日の属する事業年度の収益として計上することとなります。
ただし、特定の経費を補填するために法令の規定等に基づき交付されるもので、あらかじめその交付を受けるために必要な手続きをしている場合には、その助成金等はその経費が発生した日の属する事業年度の収益として計上することとなります。
雇用調整助成金の取扱い
⑴一般措置により交付を受けた雇用調整助成金
事前の休業等計画届の提出が必要である、一般措置により雇用調整助成金の交付を受けた場合の、収益計上時期は、あらかじめその交付を受けるために必要な手続きをしている場合に該当するため、「経費発生日の属する事業年度」の収益として計上することとなります。
⑵特例措置により交付を受けた雇用調整助成金
事前の休業等計画届の提出が不要である、新型コロナウイルス感染症に伴う特例措置により雇用調整助成金の交付を受けた場合の、収益計上時期は、あらかじめその交付を受けるために必要な手続きをしている場合に該当しないため、「交付決定日の属する事業年度」の収益として計上することとなります。
また、消費税に関する取扱いとしては、事業者が国や地方公共団体から支給を受ける助成金や給付金については、消費税の課税対象とならないとされています。